【セミナーレポート】大和証券様向け「フィジカルAIの現在地と将来展望」講演を実施

フィジカルAIの現在地と将来展望

2026年3月11日、大和証券株式会社様主催のセミナーにて、RobotMateHub代表・山本力弥(一般社団法人ビジネスAI推進機構 代表理事/合同会社ヤマリキエッジ 代表)が「フィジカルAIの現在地と将来展望 〜ロボット市場の未来を読み解く〜」と題した講演を行いました。

本講演では、証券業界のプロフェッショナルの皆様に向けて、Physical AI(フィジカルAI)の技術的な基礎から市場動向、投資観点での注目領域、そして日本企業の勝ち筋までを体系的に解説しました。本記事ではその要点をレポートとしてお届けします。

講演の3つのポイント

本講演は以下の3つの柱で構成されました。

01

なぜ今、Physical AIなのか

技術革新がもたらす市場変化とロボット開発の転換点について、基礎から解説

02

どこに注目すべきか

ヒューマノイド、物流、部品。急成長するセグメントと注目企業・地域動向を分析

03

リスクと日本企業の勝ち筋

市場・技術リスクを冷静に見極め、日本企業が勝ち残るための現実的な戦略

Physical AI(フィジカルAI)とは何か

Physical AIとは、NVIDIAが定義する「知覚・推論・計画・行動ができるAI」のことです。これまでのロボットが「命令通りにしか動けないラジコン」だったとすれば、Physical AIは「状況を見て、自分で考えて、臨機応変に動く優秀な執事」に例えることができます。

NVIDIAのJensen Huang CEOもCES 2025の基調講演で「汎用ロボットのChatGPTモーメントは、すぐそこまで来ている」と述べるなど、業界全体でPhysical AIへの期待が高まっています。

Physical AIを支える3つの技術的柱

🧠

基盤モデル(Foundation Model)

大量のデータを学習した「万能なAIの土台」。ChatGPTも基盤モデルの一種であり、テキスト・画像・音声など幅広いデータを扱える汎用性が特徴です。

👁️

VLA(Vision-Language-Action)

ロボットの「脳」にあたるモデル。カメラで見て(Vision)、状況を理解し(Language & Reasoning)、実際に動く(Action)という3ステップで物理的な動作を生み出します。

🌍

World Model(世界モデル)

物理世界の法則・挙動を脳内でシミュレーションするモデル。安全な仮想空間で何百万回もの試行錯誤を可能にし、学習速度を飛躍的に向上させます。

ロボット開発のBefore / After

Physical AIの登場により、ロボット開発の方法論は大きく変わりました。

比較項目 従来方式 Physical AI
プログラミング 専門エンジニアが1動作ずつコーディング 自然言語で指示(ノーコード化)
教示作業 人間が手で動かして軌道を記録 数回のデモで学習(模倣学習)
環境対応 固定された環境でのみ動作 未知の環境でも自律的に適応
コスト / 期間 高額カスタマイズ / 数週間〜数ヶ月 汎用ロボット活用 / 数時間〜数日

VLA研究の最前線:2025-2026年の5大ブレークスルー

2025年12月〜2026年1月にかけて、arXivに投稿されたPhysical AI関連論文は345本にのぼり、そのうちVLA関連は30本以上と爆発的な増加を見せています。講演では特に注目すべき5つのブレークスルーが紹介されました。

1

推論速度20-30Hz達成

ActionFlowにより、VLAのリアルタイム制御が現実に。従来3-5Hzの壁を突破しました。

2

ゼロショット人間→ロボット転移

人間の動画を見るだけでロボットが動作を学習。教示作業が不要になる可能性が示されました。

3

継続学習(忘れないAI)

CLAREにより、長期運用で過去の知識を忘れないAIが実現。実運用の大きな障壁が解消されつつあります。

4

能動的知覚

ActiveVLAにより、ロボットが自ら最適な視点を選択。固定カメラの制約から解放されました。

5

動的物体操作

DynamicVLAにより、動いている物体も掴めるように。時間的推論と閉ループ制御の統合が進んでいます。

2026年はVLA技術の「研究」から「実装」への転換年になる可能性が高く、この技術の成熟が市場拡大を加速させると見られています。

ロボット市場の急拡大:2030年に30.8兆円へ

GlobalDataの最新予測(2025年10月)によると、世界ロボット市場は2024年の902億ドル(約13.5兆円)から、2030年には2,055億ドル(約30.8兆円)へと拡大する見通しです。年間平均成長率(CAGR)は15%と堅実な成長が見込まれています。

2024年 世界市場規模
902億ドル
約13.5兆円
2030年 市場規模予測
2,055億ドル
約30.8兆円
CAGR
15%

サービス・物流・製造の各分野が成長を牽引し、特にPhysical AIの進展がこの上方修正の背景にあります。

注目セグメント①:ヒューマノイドロボット

2025-2026年は、ヒューマノイドロボットが「商用化から本格展開フェーズ」へ移行する時期です。2026年3月時点で、Toyotaがカナダ工場にDigitを導入、BMWがHexagon AEONを試験運用するなど、実導入事例が急増しています。

主要プレイヤーの動向

企業名 特徴・優位性
Tesla Optimus 米国 EV製造ノウハウとFSD(自動運転AI)の転用。量産能力で他を圧倒
Figure AI 米国 OpenAIとの強力な連携(GPT-4V搭載)。BMW工場での実証実験を開始
1X Technologies ノルウェー 安全性を重視したソフトアクチュエータ技術。家庭用・警備用に特化
Unitree 中国 G1が約240万円($16,000〜)という圧倒的な価格競争力。普及モデルを狙う
UBTECH 中国 NIO工場への導入決定。自動車製造ラインでの実用化で先行

市場構造としては「高価格・高性能」のリーダー層「低価格・実用重視」のイノベーター層に二極化が進んでおり、2026年3月にはNEURA Roboticsが12億ドル調達(欧州最大)、中国AI² Roboticsが約230億円調達と、新興勢の資金力も急上昇しています。

注目セグメント②:物流・倉庫ロボット

物流分野では、Physical AIにより「定型作業」から「不定形な作業」への対応が可能になりつつあります。従来は困難だった「乱雑に積まれた商品」や「透明なパッケージ」のピッキングも、AIが形状と奥行きを正確に認識できるようになりました。

企業名 コア技術 強み
Mujin(日本) ティーチレス 教示作業ゼロで動作生成。ユニクロ等の物流センターで24時間稼働を実現
Covariant(米国) AI Picking Foundation Modelを活用し、変化する商品ラインナップに即座に適応
Agility Robotics(米国) 二足歩行(Digit) 人間と同じ通路・階段を利用可能。既存倉庫のインフラ改修が不要

講演では、Physical AIの最大のボトルネックが「高品質な学習データの不足」であることも指摘されました。Agibotのデータ専業会社が数十億円を調達(2026年3月)するなど、データ収集・アノテーション企業が次の注目テーマとして浮上しています。

重要部品:減速機とバッテリー

減速機 ― ロボットの「関節」の要

減速機はロボット全体のコストの20〜30%を占める最重要部品です。精密減速機市場では、ハーモニック・ドライブ・システムズ(HDS)が約40%、ナブテスコが約35%と、日本企業が圧倒的なシェアを持っています。

一方で、Teslaが準直動型アクチュエータを内製化してコスト低減を図るなど、既存メーカーへの依存脱却の動きも出始めています。

バッテリー ― 稼働時間2時間の壁

現状の主要ヒューマノイドロボット(Tesla Optimus、Boston Dynamics Atlas等)は、バッテリー容量の制約により稼働時間が約2時間にとどまります。この課題に対し、UBTECH Walker S2の自律バッテリー交換(実証段階)、Tesla 4680セルによるエネルギー高密度化(現在主流)、全固体電池による安全性・急速充電の向上(2027年〜)といったアプローチが進んでいます。

地域別動向:米中デカップリングと技術覇権

ロボット市場は米中の技術覇権争いを軸に、二つの勢力圏が形成されつつあります。

🇨🇳 中国の独自圏

政府補助金を背景とした圧倒的なハードウェア量産力。電池・モーター・レアアースまで国内サプライチェーンで完結。産業用ロボット輸出が初めて輸入を上回りました(前年比+48.7%)。深圳が歩行ロボット産業集積地として急台頭しています。

Unitree / UBTECH / Fourier / Xiaomi

🇺🇸🇪🇺🇯🇵 西側連合

最先端の基盤モデル(GPT-4等)とNVIDIAのエコシステムによる知能面の圧倒的リード。先端半導体の輸出規制による技術封鎖戦略を展開。RaaS(Robot as a Service)やソフトウェアでの高付加価値化を推進しています。

Tesla / Boston Dynamics / NVIDIA / Agility Robotics

地政学リスクとして、サプライチェーンの二重化コスト増大、データ規制によるグローバル展開の分断、標準化規格の分裂が挙げられました。

市場のハイプサイクルとリスク要因

タイミング分析

講演では、ロボット市場は現在(2025-2026年)ハイプサイクルの「ピーク期待期」にあるとの分析が示されました。

2024-2026年

ピーク期待期

商用化元年。「なんでもできる」という過度な期待が集まる時期。
→ 戦略:部品メーカーでポジション構築

2027-2028年

幻滅期

ROI未達事例の表面化。淘汰が始まり、本物だけが残る。
→ 戦略:完成品メーカーの選別

2029年〜

安定成長期

勝者が明確になり、社会インフラとして本格普及。
→ 戦略:本格的な市場拡大を享受

主なリスク要因

技術面では、AI安全性(予期せぬ挙動・事故発生)、サイバーセキュリティ(2026年3月にはDJIロボット掃除機7,000台がハッキングされる実例も発生)、技術標準の分裂が挙げられました。

市場面では、過度な期待と失望(幻滅期の到来)、ROI実証の遅れ、投資過熱とバブル懸念、労働市場への影響(雇用問題への懸念や労働組合の反発)が指摘されました。

さらに規制・地政学面では、EU AI Actなどの規制不確実性、事故発生時の責任所在問題、米中対立によるサプライチェーン分断と供給網リスクが重要なファクターとして示されました。

💡 重要な示唆:技術的な可能性と商業的成功は別問題です。短期的には期待が先行しますが、中長期的には規制や地政学リスクへの対応力が企業の真価を問うことになります。

日本企業の勝ち筋

日本の強み

日本企業の最大の強みは精密部品の世界シェア60%という圧倒的な優位性です。減速機(HDS、ナブテスコ)やサーボモーターなどロボットの「関節」で世界をリードしています。加えて、キーエンス・オムロン等のセンサー技術、長年の製造業で培った品質・信頼性、高齢化社会というニーズの理解、そしてロボットと人の協業への文化的許容度も大きなアドバンテージです。

日本の弱み

一方で、完成品の国際競争力低下、ソフトウェア・AI技術の遅れ、スタートアップエコシステムの脆弱性、迅速な意思決定の欠如、グローバル展開力の不足といった課題も率直に示されました。

現実的な3つの戦略

🎯 選択と集中

「部品で稼ぐ」を手堅く維持しつつ、完成品は特定ニッチ(医療・介護・食品等)へ特化して正面衝突を回避する

🧩 外部脳の活用

AI・ソフトの遅れを認め、海外の頭脳(AI)と日本の身体(ハード)を融合させる

🤝 協業の最適化

現場のタスク分担とUIを改善し、人がロボットを使いこなす運用モデルを構築する

投資観点からのKey Insightとして、「部品は”誰が勝っても恩恵”を受ける」という点が強調されました。ヒューマノイド完成品メーカーの競争が激化する中でも、減速機やセンサーといった部品メーカーは市場拡大の恩恵を確実に受けられるポジションにあります。

2026-2030年のシナリオ分析

講演の締めくくりとして、3つのシナリオが提示されました。

シナリオ 確率 CAGR 2030年市場規模
楽観シナリオ
技術成熟加速・レンタル型普及モデル確立
45% 25%超 >2,000億ドル
基本シナリオ
予測線通り推移・2028-30年本格化
45% 19% 1,650億ドル
悲観シナリオ
安全問題・規制強化で普及遅延
10% 10%以下 <1,000億ドル

楽観・基本シナリオの合計が90%を占めており、ロボット市場の成長自体にはかなりの確度があるとの見方が示されました。問題は「いつ」「どの領域が」加速するかのタイミングです。

まとめ:押さえるべき3つのポイント

① Physical AIはゲームチェンジャー

開発コスト低下・汎用性向上により普及が加速。サービス・物流・医療が高成長セグメント。家庭への浸透は5-10年後から。2030年の市場規模予測は30.8兆円(CAGR 15%)。

② 注目すべき領域

手堅いのは日本の部品メーカー(HDS, ナブテスコ)。成長領域は物流・医療ロボット、AI基盤(NVIDIA)、バッテリー。ヒューマノイド完成品メーカーは競争激化。

③ リスク管理と長期視点

技術・規制・地政学リスクを正しく認識すること。2025-26年はポジション構築の時期、2028年以降に勝者が明確化する。

※本資料の予測は現時点での見通しであり、将来の結果を保証するものではありません。

RobotMateHubについて

RobotMateHubは、ロボティクス・AI専門の人材プラットフォームです。ロボット業界の最新ニュースを毎日更新し、学習用コンテンツの提供、毎週のWebinar開催、Talent Database、Project Matching System、そしてイベント情報のハブとして、ロボット業界の「学び」と「つながり」を支援しています。

今後も大和証券様をはじめとする金融機関・事業会社様向けのPhysical AI / ロボティクスに関するセミナー・講演のご依頼を承っております。お気軽にお問い合わせください。

講演・セミナーのご依頼はこちら

お問い合わせ

講演者プロフィール

山本 力弥(やまもと りきや)

通称ヤマリキ。一般社団法人ビジネスAI推進機構(BAAO)代表理事 / 合同会社ヤマリキエッジ 代表。

慶應義塾大学理工学部管理工学科卒業。アクセンチュアでサプライチェーン専門コンサルタントとして活動後、ソフトバンクロボティクスで人型ロボット「Pepper」の事業立ち上げに従事。ギネス世界記録を受賞したプロジェクトの立上げと実行をリード。経済産業省AIガバナンス・ガイドライン執筆協力者。

著書:『はじめてでも失敗しない生成AI導入』『ロボット共存時代の教科書