2026年7月30日(木)、RobotMateHub主催のオンラインウェビナー「フィジカルAIエンジニア生存戦略2026 vol.2 〜ROS2の次に何をやるべきか〜」を開催しました。応募は約50名にのぼり(前回は約30名)、当日も常時30名ほどの方にご参加いただきました。本記事では、当日の内容をレポートとしてお届けします。
開催概要
| イベント名 | フィジカルAIエンジニア生存戦略2026 vol.2 Humanoid Hack Tokyo 2選抜メンバーが語る「ROS2の次に何をやるべきか」 |
|---|---|
| 日時 | 2026年7月30日(木)19:30〜20:30 |
| 形式 | オンライン(Google Meet)/参加無料 |
| 主催 | RobotMateHub |
登壇者
小林 正幸メインスピーカー
本業ではEV充電・エネルギー領域を軸に、技術とビジネスをつなぐブリッジ人材としてプロジェクトマネジメントに従事。展示会でダンスロボットを見たことをきっかけにフィジカルAI領域へ関心を持ち、実機ヒューマノイドロボットハッカソン「Humanoid Hack Tokyo 2(HHT2)」に選抜メンバーとして参加。
山本 力弥RobotMateHub代表
RobotMateHubの代表として、ロボットに関する案件をコミュニティメンバーとともに推進。本ウェビナーではオブザーバーとして参加し、各パートで補足コメントや対談を担当。
谷舖司会・運営スタッフ
RobotMateHub運営スタッフ。YouTube制作や組織づくり・採用支援を専門とし、コミュニティ運営の支援として参加。当日はスライド操作を含む進行を担当。
なぜ今、フィジカルAIなのか
前半はまず、「なぜこの分野に挑戦する価値があるのか」という前提の共有からスタートしました。
小林さんによると、フィジカルAIは世界中のプレイヤーが本気で投資を始めている領域です。NVIDIAやTeslaといったグローバル大手が参入し、ロボットの活用は物流や建設などの現場ですでに始まっています。
日本でも国家レベルの動きが本格化しています。政府の成長戦略17分野にフィジカルAIが位置づけられ、10.5兆円規模の官民投資が計画されています。山本さんからは「内閣府の公開資料で、フィジカルAIは17分野の一番上に記載されている。政府資料の並び順には意図があると認識しており、それだけ注力したい分野だと読み解ける」という補足もありました。
フィジカルAIはすでに研究段階を超え、産業として本格的に立ち上がりつつある領域。「何を学ぶか」以上に「どんな経験を積むか」が重要になる、というのが本編を貫くメッセージでした。
特別な才能は要らない――小林さんの学習ロードマップ
小林さんがまず強調したのは、「フィジカルAIエンジニアになるために、ロボット系の大学出身や新卒でロボット企業に入るといった特別な経歴・才能は必要ない」ということです。
大切なのは、次のサイクルを小さく回し続けること。
- 学ぶ
- 学んだことをコードやシステムとしてアウトプットする
- シミュレーションや実機で試す
- 失敗を改善して、次につなげる
小林さん自身も、今年に入ってから「まず実機に触りたい」とロボット系ハッカソンに初心者として飛び込み、ロボットがまったく動かないという苦い経験をしたところからのスタートでした。その反省を踏まえてオープンソースのロボットアームを購入し、自分で開発環境を構築してシミュレーションや制御に挑戦。この積み重ねの先に、HHT2への選抜がありました。
倍率約10倍、Humanoid Hack Tokyo 2への挑戦
HHT2は、ヒューマノイド出荷台数世界No.1のUnitree社のロボットを使い、約1.5日間で開発から実機デモまで行うハッカソンです。応募倍率は約10倍という狭き門でした。
選考で評価されるのは技術力だけではありません。「社会のどんな課題を解決するのか」という提案力が、参加可否を分ける重要な要素だったと小林さんは振り返ります。ロボットを作ること自体ではなく、「ロボットを使って何をするか」までがゴールとして問われる大会だったのです。
シミュレーションでは動いたのに――Sim-to-Realの壁
実機開発で必ず直面するのが、シミュレーションと実環境の乖離、いわゆる「Sim-to-Realギャップ」です。
小林さんのチームがHHT2で取り組んだのは、ロボットがカメラで雪を検知し、人間用のスノープッシャー(雪押しスコップ)を使って人の動線を確保する「雪かきロボット」でした。シミュレーション上では床に雪を模したオブジェクトを置いて検知に成功していたものの、実際の会場では床の素材も色も想定と異なり、会場の床そのものを雪と誤検知してしまうトラブルが発生。想定した環境と実環境の違いに、まさに現場で向き合うことになりました。
ほかにも、摩擦や部品の個体差、ケーブル抜け、電圧設定のミス(高すぎれば故障や発煙、低ければそもそも動かない)、「そもそも電源が入っていなかった」といった実機ならではのトラブルは日常茶飯事とのこと。
「ロボット開発は、動かすことよりも動かなかった理由を見つけて改善する時間のほうが圧倒的に長い。その経験こそがエンジニアの実力になる」(小林さん)
ROS2の次に必要なもの
本題である「ROS2の次に何をやるべきか」。小林さんの答えは、「次の技術を探すこと」ではありませんでした。
ROS2はロボット開発のデファクトスタンダードであり入り口として重要である一方、AIコーディングエージェントの登場により、ノードやロボットの構造定義、制御ソフトなど多くの開発作業がAIに支援されるようになっています。その結果、「ROS2のコードを書けること」自体の希少性は下がりつつあります。
これから価値が移っていくのは、何を作るかを決め、AIの出力をレビューし、実機に統合し、発生した問題を解消して改善していく――つまり現場での対応力です。技術を増やすだけでは基礎しか伸びない。シミュレーションで検証し、実機で動かし、想定どおり動かない原因を調べて改善するサイクルを諦めずに回す経験こそを積んでほしい、と小林さんは語りました。
また、ソフトウェア開発とロボット開発は「要件を考え、設計し、実装し、テスト・運用する」という流れ自体は共通です。要件定義力、クラウド知識、セキュリティ、データ分析、プロジェクトマネジメントといったSIer・ITエンジニアの経験はそのまま活かせるため、いまある強みにセンサーやROS2、シミュレーションといったロボットならではの知識をアドオンしていくのが、フィジカルAIへの最も現実的な入り方だと提案されました。
HHT2で見えた、フィジカルAIエンジニアに必要な3つの力
ハッカソンでの経験を通じて小林さんが定義したのが、次の3つの力です。
Reality現実世界を扱う力
シミュレーションと実機の乖離、電源・摩擦・環境要因など、実機固有の課題に現場で立ち向かい、改善する力。
IntelligenceAIを動かす力
どんなデータを与え、どんな環境で学習させ、結果をどう評価するかを設計し、AIを活用して学習サイクルを高速に回す力。
Business価値に変える力
誰のどんな課題を、いくらで解決し、どう投資回収するのか。技術を社会実装につなげるビジネス設計の力。
Businessの重要性を象徴するのが、HHT2の審査でのやりとりです。技術面には手応えがあった一方、審査員から刺さった質問は「これはいくらで作って、いくらで売って、いつ頃できるのか」。技術を作ることと、価値を実際に届けることは別物である――社会実装には「ビジネス的な視点」が不可欠だと実感した瞬間だったそうです。
AIに任せられるのは一部。人間の役割はどこに残るか
AI活用のパートでは、山本さんから示唆に富む補足がありました。コンサルティング会社のレポートによると、生成AIによって楽になったのは全体工程の20〜30%程度。残りの70〜80%は要件定義や、テスト結果を顧客に説明する部分など、人間が介在すべき領域だといいます。
小林さんも同意見で、HHT2ではコードの調査・生成、実装方針の壁打ち、エラー原因の調査、発表資料の作成まで幅広くAIを活用した一方、「何を作るか」「どの方法を採用するか」「実機で動いた結果をフィードバックする」といった最終判断は人間の役割として残り続けると語りました。
ロボットエンジニアの市場価値――単価は平均より約40%高い
キャリアの観点では、山本さんがロボット関連の求人案件を分析した結果を共有しました。現状、ROS2やフィジカルAIといったキーワードが並ぶ案件はまだ少数派で、多くは組み込みソフトウェア開発やロボティクスの実装が中心です。しかし、それらの新しいキーワードで絞り込むと、単価は平均より約40%高い傾向にあるとのこと。
「必ず年収が上がるとは言えないが、企業側がROS2人材の希少性に価値を感じ始めているのは確か。学ぶタイミングに遅すぎることはなく、変化の速い時代に自分のキャリアを守る意味でも、今から学ぶことは大事」と山本さんは語りました。
また山本さんは、小林さんの掲げた3つの力の頭文字「RYB」にちなんで、「英語のRib(肋骨)は心臓を守っている。新しい産業を動かす原動力として一番大事なのは、何かを変えていこうという思い・情熱だ」というコメントも。会場を和ませつつ、本質を突く一言でした。
対談:その先、何を学べばいいのか
後半は、小林さんから山本さんへ「ROS2や実機開発を経験したエンジニアは、その先何を学べば仕事につながるのか」を問う対談パートです。
山本さんの見立てはこうです。現在は事業者側が「ロボットで何をしたいか」を明確に定義できていないケースが多く、「広く浅く」何でも知っていて、ある程度何でもできる人材に価値が集まりやすい。一方、5年・10年という中長期で見れば、広い基礎教養を前提としたうえで、「この領域なら右に出る者がいない」というナンバーワンの専門領域を作ることが求められるようになる、という予測でした。
小林さんも「ロボットの一般教養はみんなまだ学んでいない新しい分野。まずそこを押さえたうえで専門性を磨いていかないと、『この人は要らない』と言われる未来も来かねない」と応じました。
質疑応答:1体1,000万円のヒューマノイド、どう活かす?
質疑応答では、ヒューマノイド事業を手がける会社代表の方から「1体1,000万円のヒューマノイドを購入したが、エンジニアはどんな実機の触れ方ができると嬉しいのか」という質問がありました。
小林さんの回答は、「実機に触れる機会そのものは非常に嬉しい。ただし『どんな課題を解決してほしいのか』がセットであってほしい」というもの。歩行をさせたいのか、道具を使わせたいのか――目的を明確にし、タスクや道具の使い方についてエンジニアとディスカッションを重ねることで、良い形で前に進むはずだと答えました。
まとめ:小さな行動から始めよう
締めくくりに小林さんが提示したのは、いきなり全部を理解しようとせず、段階的に経験を積むというプランです。
- 知る:ニュースを追う、コミュニティに参加して様子を見る
- 作る:シミュレーターを動かす、安価なオープンソースロボットを購入して試す
- 発信する:作ったもの・知ったことをまとめて発信する
- 仕事につなげる:ハッカソンなど外部評価の場に挑戦し、次の機会につなげる
仲間づくりや実機に触れる場としては、RobotMateHubのほか、富士通のイノベーション共創プラットフォーム、東京大学松尾研究室のフィジカルAI Slackコミュニティなども紹介されました。
また、終了後の登壇者間の振り返りでは、「シミュレーターやROSの環境構築自体が高いハードルになっている」という課題意識から、環境構築を支援するハンズオン形式の勉強会を今後企画していく方向で意見が一致しました。続報をお楽しみに。
RobotMateHubコミュニティのご案内
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