2026年8月26日、タイ・バンコクで開催された東南アジア最大級のテック&スタートアップカンファレンス「Techsauce Global Summit 2026」のAI Transformation Stageに、RobotMateHub代表・山本力弥(合同会社ヤマリキエッジ 代表)が登壇しました。
講演タイトルは「What If Your Next Employee Isn’t Human? Are You Ready to Hire One?」――もし次の新入社員が人間でなかったら? あなたはそれを”雇う”準備ができていますか? 2026年のヒューマノイド市場の現在地、導入したロボットが現場から撤去される本当の理由、ロボットを”買う”のではなく”雇う”ためのフレームワーク「EDGEモデル」、そしてタイという国への提言までを、約20分のセッションに凝縮して発信しました。
本記事では、当日の登壇資料をもとに講演内容を詳しくレポートします。
この記事でわかること
- Techsauce Global Summit 2026の概要と、登壇セッションの内容
- 2026年時点のヒューマノイド市場のリアル(主要機体・導入先・価格帯)
- 導入ロボットが撤去される理由の83%が「社会的要因」だったという調査データ
- ロボット社員が”辞める”5つの理由(5層の社会的障壁)
- ロボットのための採用プロセス「EDGEモデル」(Examine/Design/Ground/Evolve)
- 「世界のロボットが学びに来る国」――タイへの提言の中身
登壇概要
- イベント名
- Techsauce Global Summit 2026
- 開催日程
- 2026年8月26日(水)〜28日(金)
- 会場
- Queen Sirikit National Convention Center(QSNCC)/タイ・バンコク
- 大会テーマ
- The Race to The Next…
- 登壇ステージ
- AI Transformation Stage
- 登壇日
- 2026年8月26日
- 講演タイトル
- What If Your Next Employee Isn’t Human? Are You Ready to Hire One?
- 登壇者
- 山本 力弥(合同会社ヤマリキエッジ 代表/RobotMateHub 創業者)
- 形式
- 英語セッション(約20分)
講演の要点(サマリー)
先に結論をまとめます。詳細は後半の「講演内容レポート」で解説します。
- ロボットは「安くなった」のではなく「脳」を手に入れた。生成AIが物理世界に到達し、見て・理解して・判断して・動く「フィジカルAI」の時代に入った。
- 2026年、ヒューマノイドは工場・薬局・病院・家庭ですでに稼働を始めている。ただし今”雇える”のは限定的で明確なタスク。5〜10年先を見据えた採用計画が必要。
- 撤去された導入ロボット30事例のうち、技術的要因は17%。残り83%は「人・プロセス・環境・文化」の社会的要因。失敗の正体は、ロボットの性能ではなく”雇い方”にある。
- ロボットが”辞める”理由は5層――心理・環境・運用・KPI・文化。1つでも欠けると、高価なロボットは高価な置物になる。
- 解決策は、ロボットのための採用プロセス「EDGEモデル」。Examine(事前審査)→Design(職務記述書とオンボーディング)→Ground(職場の物理的準備)→Evolve(レビュー・成長・共有)。
- タイへの提言:6,000社超の日系企業と厚い製造業基盤を持つタイは、「世界のロボットが学びに来る国」になれる。工場データ×EDGE×データ権利設計が、新しい輸出産業を生む。
Techsauce Global Summit 2026とは
Techsauce Global Summitは、タイのテックメディア/エコシステムビルダーであるTechsauceが主催する、東南アジア最大級のテック&スタートアップカンファレンスです。「タイを東南アジアのデジタルゲートウェイに」というミッションのもと、スタートアップ、投資家、大手企業、政府関係者が一堂に会し、複数のステージで講演・ワークショップ・展示・ビジネスマッチングが行われます。
2026年は「The Race to The Next…」をテーマに、8月26日(水)から28日(金)までの3日間、バンコクのQueen Sirikit National Convention Center(QSNCC)で開催されました。山本が登壇したのは「AI Transformation Stage」です。
RobotMateHubにとって2026年は、WeRobot 2026(ベルリン)、Humanoids Summit Tokyo 2026に続く国際登壇となりました。日本が10年以上かけて蓄積してきたロボット導入の知見――成功も失敗も含めて――を、東南アジアの経営者・投資家・政策担当者に向けて発信する機会となりました。

講演内容レポート
講演は、(1)登壇者の実績、(2)2026年ヒューマノイド市場のリアル、(3)ロボット社員が”辞める”理由、(4)EDGEモデル、(5)タイへのメッセージ、という5つのパートで構成されました。要所には短い実機映像も挿入され、”動くロボット”を見せながら、主題を「ロボット」から「雇う側」へと移していく構成です。以下、資料に沿って順に紹介します。
「次の新入社員が人間でなかったら?」
講演の冒頭、山本は聴衆に一つの”居心地の悪い質問”を投げかけました。「もし、あなたの次の新入社員が人間でなかったら? あなたはそれを雇う準備ができていますか?」。「後で考える」は答えにならない――そう前置きしたうえで、世界が議論しがちな「ロボットはどれだけ賢いか」という問いは、新入社員の面接でIQだけを聞くようなものだと指摘します。本当に重要なのは「あなたの職場に馴染むか」「チームは受け入れるか」という”雇う側”の問いであり、この講演の主題はロボットではなく「あなた」だ、と宣言しました。
Part 1|「誰よりも多くのロボットの失敗を見てきた」――登壇者の現場経験
山本は10年以上にわたり、店舗・銀行・ホテル・家庭で数千台規模のヒューマノイドや四足歩行ロボットを”働かせて”きた実務家です。全国規模での家庭・小売向け展開や、先進的な四足歩行ロボットの日本展開を主導した経験を持ち、現在はRobotMateHubとして日本・中国の10社以上のロボット運用事業者にアドバイスを行っています。
資料の一文「I’ve probably seen more robots fail than anyone alive.(おそらく生きている誰よりも多くのロボットの失敗を見てきた)」に、この講演の視点が凝縮されています。大勢の観客の前でヒューマノイドのチームが同時に停止する、家庭用ロボットがオーナーの名前を間違えて呼ぶ――そうした失敗の現場を見続けてきたからこそ語れる「導入のリアル」が、本講演の土台です。その経験を共有し、最新情報を交換する場として運営しているのがRobotMateHub(学習教材の制作、ハッカソンの運営、コンサルティング)であることも紹介されました。
Part 2|2026年ヒューマノイド市場のリアル――「誇大宣伝」と「現実」
ロボットは「安くなった」のではなく「脳」を手に入れた
工場のロボットアームや商業施設の案内ロボットは、すでに身近にあります。では、なぜ今また「ロボット」が語られるのか。山本の答えは、価格が下がったからだけではなく、「ロボットがついに脳を手に入れたから」です。
「スマート自販機」だった従来のロボット
- プログラムされたことだけを実行し、それ以上は何もしない
- 1台・1タスク・1スクリプト
- 変更のたびに再エンジニアリングが必要
見て・理解し・推論し・動く
- 生成AIが物理世界に到達
- VLA(Vision-Language-Action)基盤モデル:NVIDIA GR00T、Gemini Roboticsなど
- 「速い思考」と「遅い思考」――反射と推論の両立
「なぜ今なのか」を後押しする要因として、資料ではAIのブレークスルー、労働人口の高齢化、ハードウェアコストの低下の3点が挙げられました。講演では市場規模にも触れ、ゴールドマン・サックスの予測として、ヒューマノイド市場が2035年には約380億ドル規模に達するとの見通しを紹介しています。
フィジカルAIはデータで動く――See → Understand → Decide → Act
その”脳”を動かすのはデータです。ロボットは新入社員と同じように、見て、試して、繰り返して学びます。資料で示されたのは、人間の働き手とまったく同じ4段階のループです。
山本は「あなたも今、まさにこのループを回している」と語りかけます。ステージ上の自分を見て(See)、”日本から来たロボットの人だ”と理解し(Understand)、聞き続けるかどうかを決め(Decide)、行動する(Act)。ロボットも同じループをたどる、というわけです。
そして、ロボットが学ぶためのデータ源は3つに整理されました。
- 人間のデモンストレーション――テレオペレーション、モーションキャプチャ、直接教示
- シミュレーションとデジタルツイン――数千の学習シナリオを並列で実行
- 現場での稼働時間――すべての実導入が、次のモデルを育てる
学習サイクルは「年単位から週単位へ」短縮されつつある(Siemens, The Industry Forward Podcast, 2026)と紹介され、このパートは「データがなければスキルもない。すべてのロボットは教えられなければならない――データによって」という言葉で締めくくられました。
いま動いている機体――Unitree G1/AgiBot A3/Boston Dynamics Atlas
続いて、未編集の実機映像とともに、現在のヒューマノイドの到達点が紹介されました。
- Unitree G1(中国)――量産型ヒューマノイド。約13,500ドル〜
- AgiBot A3(中国・上海)――フルサイズのヒューマノイド
- Boston Dynamics Atlas(米国)――電動版。研究・パイロット用途
RobotMateHubが運営するロボティクスデータベース「RobotDB」では、800社以上・500機種以上を追跡しており、こうした機体は「すでに動く」段階にあります。残された問いは「仕事を持てるかどうか」だ、と山本は強調しました。
2026年の「ヒューマノイド労働力」――6機種の現在地
「誰が、どこで働き、今いくらなのか」。資料では、2026年時点で実際に導入・稼働している(あるいはその直前にある)6機種が、用途分野ごとに整理されました。
Sunday Robotics “Memo”
- 導入先
- 米国の一般家庭50世帯(ベータ)
- 状況
- 商用化前のベータ
- 価格
- 目標 5,000〜10,000ドル
Tesla Optimus V3
- 導入先
- Tesla自社工場
- 状況
- 2026年に社内生産
- 価格
- 目標 2万ドル未満(量産時)
Figure 03
- 導入先
- BMW スパータンバーグ工場
- 状況
- 商用導入済み
- 価格
- 非公開
UBTECH Walker S2
- 導入先
- BYD・Foxconn・Geely
- 状況
- 量産中。受注1億1,000万ドル超
- 価格
- 非公開
Omakase Robotics “D1”
- 導入先
- 医療・サービス(日本)
- 状況
- 2026年8月ローンチ
- 価格
- 約32,000ドル
Galbot G1
- 導入先
- 北京の薬局・店舗
- 状況
- 商用導入済み
- 価格
- 約95,000ドル
※価格・状況は登壇資料(2026年8月時点)に基づく概算・公表値です。
講演ではこの表を指しながら、Sunday Roboticsが米国の家庭で家庭用ヒューマノイドを試験中であること、Tesla Optimusが自社工場で稼働し量産時2万ドル未満を目指していること、Figureの第3世代機がBMWで稼働していること、UBTECHのWalkerがBYDやFoxconnなどで量産展開されていること、日本ではOmakase Roboticsが病院・サービス現場向けに事業を始めたこと、中国ではGalbotが北京の薬局で24時間稼働していることが紹介されました。そして、「実際の導入が進み、価格は急速に下がっている。勝敗を分けるのはロボットではなく、あなたがどう雇うかだ」と続けます。
「いま雇える仕事」と「5〜10年後に任せられる仕事」
ヒューマノイドが今日できることについて、山本は率直です。現時点で雇うべきなのは、限定的で明確なタスク。「CEOではなく、優秀なインターンだと思ってほしい」という比喩で、期待値を現実に引き戻しました。
- 警備――巡回、境界監視、アラート
- 物流――資材搬送、ピッキング補助
- 点検――設備チェック、計測値の読み取り、異常検知
- ホスピタリティ――来客対応、案内、配膳・下膳
- 多様な物体のピック&プレース
- 顧客とのインタラクション
- 清掃・メンテナンス、在庫管理・品出し
- 基本的な保守、ドアの開閉や工具の使用
- 動的な環境のナビゲーション、適応・学習・リカバリー
- → 混在・非構造化業務をこなす汎用ヒューマノイドへ
ここから導かれるアドバイスは、「今日のために雇うのではなく、5〜10年先を見据えて採用計画を立てる」こと。今はシンプルで明確な仕事から始めつつ、より広く難しい仕事を任せられる将来に備えて、組織側の準備を進めておくべきだ、というメッセージです。
ボトルネックはロボットではなく「雇う側の準備」
「ロボットは働けるか?」――答えはYes。では「私たちはロボットを雇う準備ができているか?」――これこそが、誰も口にしたがらない本当の問いだと山本は言います。受付、物流、警備、サービスといった現場で成果を出す組織は、ロボットを買って”うまくいくことを祈る”のではなく、仕事・職場・チーム・研修教材を先に準備している。ボトルネックは最初からロボットではなく、雇用主側の準備にあったのだ、と。
タイは日本の「10年分の学習」をスキップできる
日本は世界で最も高齢化が進んだ社会であり、講演では2030年に約600万人の労働力不足に直面するとの見通しにも触れられました。人手が足りないからこそ、日本では10年以上前からロボットが現場で働いてきた。その成功も失敗も記録に残っており、他国はそこから学べる――これが、山本がタイの聴衆に伝えたかったことの一つです。
資料では、タイが直面する4つの状況が整理されました。
- 労働力不足――労働人口の減少と賃金の上昇
- 「富む前に老いる」――Growing old before growing rich
- 観光・ホスピタリティ――サービス需要がスタッフ数を上回る
- EEC(東部経済回廊)の製造業――自動化に適した産業基盤
そのうえで「レガシーが少ないことは、リープフロッグ(一足飛びの飛躍)の可能性」と指摘。最初から正しい”雇い方”を設計すれば、日本が10年かけて学んだ過程を飛ばし、フィジカルAIネイティブな導入に直接到達できる、と呼びかけました。
Technically Ready, Socially Broken――撤去理由の83%は「社会的要因」
技術的にはロボットは動く。しかし社会的に人に受け入れられず、最終的に撤去される。山本が「Technically Ready, Socially Broken(技術は追いついた。壊れているのは社会の側だ)」と表現するこの構造を裏付けるデータとして、ロボットが現場から撤去された30事例の分析が示されました。
※n=30(RobotMateHubフィールドインタビュー17件+MillTalk調査13件、2024〜2026年)。撤去時に挙げられた主要因を分類した参考値(indicative sample)です。
技術的な理由で撤去されたのは全体の17%にすぎず、残りは「スタッフが使えない」「ワークフローに合わない」「組織に根付かない」という人間側の理由でした。山本はこれを「ロボットの失敗ではなく、間違った雇い方のコスト(A BAD HIRE)」と定義します。

Section 02|ロボット社員が”辞める”5つの理由――5層の社会的障壁
では、ロボット社員はなぜ”辞める”のか。答えは技術ではありません。資料では、導入現場で立ちはだかる障壁が5つの層に整理されました。
- 心理的Psychologicalスタッフの不安・不信。「自分の仕事を奪いに来たのか?」
- 環境的Environmental段差、ドア、床――ロボットが働けない空間。段差ひとつ、ドアひとつで完全に止まる
- 運用的Operational役割・責任者・日々のワークフローが不明確。誰もロボットに責任を持たない
- KPI/指標KPI / Metrics成果を出しているかどうかを測る方法がない。証明できない
- 文化的Culturalチームに統合されないまま。組織の一員になれない
Section 03|EDGEモデル――ロボットのための「採用プロセス」
計画なしでは、最新のロボットも現場に混乱を生むだけ。しかし正しいプロセスがあれば、ロボットは人のすぐ隣で働ける。その”正しいプロセス”として体系化されたのが、ロボットのための採用プロセス「EDGEモデル」です。即興的な導入を、再現可能な採用プロセスに変える4つのステップで構成され、前述の5層すべてに対応します。
なお、当日は時間の都合上、4ステップの全体像と第1ステップ「Examine」を中心に解説されました。以下では登壇資料をもとに、4ステップすべてを整理します。
E
Step 1:Examine(事前審査)Pre-hire screening ― 導入前に、5層すべてを審査する
対応する層:5層すべて
何かを導入する前に、以下の5つの問いに答えます。
- スタッフの不安は把握され、対処されているか?
- 物理的な空間は、ロボットが通行できるか?
- 役割と責任者は定義されているか?
- ロボットを評価するためのKPIはあるか?
- チームはロボットを受け入れる準備ができているか?
D
Step 2:Design(職務記述書とオンボーディング)Job description & onboarding ― 新入社員と同じように迎え入れる
対応する層:心理的・運用的
ロボットの職務記述書(Robot Job Description)を書き、新入社員と同じ手順でオンボーディングします。
- 名前――「aibo」「LOVOT」のように、アイデンティティを与える
- 役割――1つの明確な仕事と、1人の明確な責任者(ロボットの”メンター”)
- 初日のスクリプト――初日に何をし、何を話し、どこへ行くのか
- 事前Q&A――ロボットが到着する前に、スタッフの疑問に答えておく
名前・役割・初日のスクリプトが揃うと、スタッフの不安は素早く下がる――これがDesignの狙いです。
G
Step 3:Ground(職場の物理的準備)Prepare the workplace ― ロボットが実際に働ける環境にする
対応する層:環境的
“想定外の段差ひとつ”で初日にロボットが止まらないよう、物理環境をBefore(Not robot-friendly)からAfter(Robot-friendly)へ整えます。チェック項目は次の5つです。
- 段差・敷居
- 通路幅
- ドア
- 床材とグリップ
- エレベーターへのアクセス
初日を迎える前に、現場を「ロボットフレンドリー」と認定しておくことがゴールです。
E
Step 4:Evolve(レビュー・成長・共有)Review, grow & share ― 1回の採用を、業界の能力に変える
対応する層:KPI・文化的
一回きりのイベントではなく、継続的なループとして回します。
- 90日ごとの合同レビュー
- 失敗データの交換
- 人材育成(R検定)
- 業界横断での共有
「1回の採用で終わらせない。次の採用を楽にする”筋肉”を作る」――Evolveは、一社の導入経験を業界全体の能力へと変えていくステップです。
資料には投資家に向けた一文も添えられていました。「この再現可能なプレイブックこそが堀(moat)であり、ハードウェアよりも模倣が難しい」。ロボット本体ではなく、”雇い方”のプロセスにこそ競争優位が宿るという視点です。

Section 04|タイへのメッセージ――「世界のロボットが学びに来る国」になれるか
講演の後半は、「東京からバンコクへ持ってきた一つのアイデア」と題した、タイに向けた提言です。
ロボットには、学ぶための「インターネット」がない
ChatGPTやClaudeのような生成AIは、インターネット上の膨大なデータから学びました。しかしロボットに必要なのは”動きのデータ”であり、それはインターネット上にほとんど存在しません。実世界のロボットデータは1時間ずつしか集められず、その希少性が、データ収集そのものを「仕事」や「産業」に変えています。冒頭の「データがなければスキルもない」という問題が、産業規模で起きているわけです。
- Scale AI――Physical AI Data Engineを通じて10万時間以上のデータを収集(公式発表、2025年)
- Tesla――Optimusに教えるためのデータ収集オペレーターに時給25〜48ドルを支払い。現在はカメラのみでの収集へ移行中
- 中国――JD.comが1,000万時間のデータ収集を計画。地方政府が約40のトレーニングセンターに資金を提供
「モデル構築には深い資本が必要。だがデータレースは、まだ大きく開かれている」。日本もこのデータを欲しており、あらゆる国が同じことを望み始めている、と山本は語りました。
フィジカルAIは「工場」で育つ
では、そのデータはどこから来るのか。答えの一つが工場です。密度・温度・湿度が管理され、床は平らで、作業は構造化されている。工場は最もロボットフレンドリーな実環境であり、ロボットが最も速く稼働時間を積み上げられる場所だからです。
- Figure × BMW(スパータンバーグ工場)――累計1,250時間以上の稼働、3万台の車両生産に関与。その稼働データは次世代機Figure 03の設計に直接反映された(公式発表)
- 日本(経済産業省/NEDO)――工場現場のデータを基盤モデルに変える国家プログラム。経産省とNEDOは、これを日本の競争力の源泉と位置づけている
なぜタイなのか――数字で見るポテンシャル
山本は、タイは単一タスクにフィジカルAIを使うだけでなく、まったく新しい価値を生み出せると考えています。その根拠として示されたのが、タイの製造業基盤を示す数字です。
※出典はいずれも登壇資料の記載による(JETRO「Japanese Companies in Thailand Survey 2024」2025年2月/FTI/World Bank/BOI)。
日本国外で最大級の日系製造業の集積がタイにはあり、労働力が高齢化する一方で、産業基盤は成長を続けている。「自動化は選択肢ではなく必然」であり、「フィジカルAIのトレーニンググラウンドは、すでにタイに存在している」というのが山本の見立てです。
提案――タイ工場 × EDGE × データ権利設計 = 新しい輸出産業
ここで提示されたのが、「もしタイが、世界のロボットが学びに来る場所になったら?」という問いです。消費者データでは中国がリードしています。しかし、日系工場の”工場データ”はまだ誰のものでもない。タイの工場に、EDGE型の正しい導入でロボットを雇い、公正なデータ権利を設計する――その掛け算が、「データとモデル」という新しい輸出産業になる、という構想です。
鍵となるのは「工場データは誰のものか」という問題です。工場か、労働者か、データ収集者か。EUはData Act(2025年適用)で先行しましたが、アジアの枠組みはまだ書かれていません。公正なデータ権利を最初に設計した国が、信頼と市場を勝ち取る――山本はそう指摘したうえで、「これはまだアイデアの段階。しかし製造業、投資家、政策担当者の方で興味を持った方は、講演後に声をかけてほしい。”人”の部分はここから始まる」と呼びかけました。

RobotMateHub――「学び」から「実装」へ
フィジカルAIはまだ始まったばかりであり、前に進めるうえで最も重要なのは「人」です。講演の終盤では、その人材を育てる場としてRobotMateHubの活動が紹介されました。
- 講義・ワークショップ――最新トレンド、導入の実務、ロボットフレンドリーな社会づくり
- ヒューマノイドハッカソン――発表・表彰・ネットワーキングを含む実践の場
- 学習コンテンツ――ハードウェア、ソフトウェア、データ、AI、規制、安全、勝つためのビジネスモデルまでを網羅
日本で繰り返し開催してきたヒューマノイドハッカソンについては、「あなたのキャンパス、あなたの会社、あなたの街で、一緒に開催しよう」とタイの聴衆に呼びかけました。
クロージング――「面接は、もう始まっている」
最後に山本は、RobotMateHubのコミュニティ(Discord)への参加を呼びかけ、学習コンテンツを無料で提供していることを紹介しました。「ヒューマノイドを雇う日は、すぐそこまで来ている。その日が来たとき重要なのは、あなたの会社に準備ができているかどうか。それはRobotMateHubから始まる。一緒に、この新しい時代を築こう」――聴衆と主催者への感謝の言葉で、約20分のセッションは締めくくられました。
現地の様子(フォトレポート)


今回の登壇の意義と、これから
EDGEモデルは、2026年5月のHumanoids Summit Tokyo 2026でも発表したフレームワークです。今回のTechsauce Global Summit 2026では、そのEDGEモデルを「ロボットを雇う」という切り口でASEANの経営層・投資家・政策担当者に向けて発信し、あわせて「タイを世界のロボットが学びに来る国に」という提言を提示しました。
講演の中で山本が呼びかけたのは、次の2点です。
- タイの大学・企業・自治体とのヒューマノイドハッカソンの共同開催
- 「タイ工場 × EDGE × データ権利設計」の構想に関心を持つ製造業・投資家・政策担当者との対話
RobotMateHubは今後も、国内外での登壇・研究発表を通じて、日本のロボット導入の知見を発信するとともに、フィジカルAI時代の人材育成と社会実装を進めていきます。
登壇者プロフィール
山本 力弥やまもと りきや
合同会社ヤマリキエッジ 代表/RobotMateHub 創業者/一般社団法人ビジネスAI推進機構(BAAO)代表理事
ロボット業界歴11年。アクセンチュアでのコンサルタント職を経てソフトバンクロボティクスに入社し、人型ロボットPepperの事業責任者として法人・個人向けの展開を担当。ロボット100体によるスタジアム応援団でのギネス世界記録への挑戦にも携わる。四足歩行ロボットの日本市場導入(2020〜2021年)にも従事。現在は合同会社ヤマリキエッジ代表として、ロボット業界に特化した人材育成・マッチングプラットフォーム「RobotMateHub」を運営。一般社団法人BAAO代表理事として、経済産業省のAIガバナンスガイドライン策定にも参画。2026年はWeRobot 2026(ベルリン)、Humanoids Summit Tokyo 2026、Techsauce Global Summit 2026(バンコク)に登壇。
講演・登壇・取材のご依頼
フィジカルAI・ヒューマノイドの社会実装、ロボット導入の現場課題、EDGEモデルに関する講演・登壇・取材のご相談を受け付けています。海外カンファレンス、企業研修、大学・自治体でのイベントにも対応します。
よくある質問
EDGEモデルとは何ですか?
RobotMateHubが提唱する、ロボット導入を「採用プロセス」として設計するフレームワークです。Examine(事前審査)、Design(職務記述書とオンボーディング)、Ground(職場の物理的準備)、Evolve(レビュー・成長・共有)の4ステップで、心理・環境・運用・KPI・文化という5層の障壁に対応します。
「撤去理由の83%が社会的要因」というデータの出典は?
RobotMateHubのフィールドインタビュー17件とMillTalk調査13件(2024〜2026年)、計30事例の分析に基づく参考値です。ロボット撤去時に挙げられた主要因を分類したもので、運用負荷37%、スタッフが操作できない23%、環境の不一致23%が社会的要因(計83%)、故障・エラーが技術的要因(17%)でした。
ヒューマノイドは今すぐ導入できますか?
講演では、警備・物流・点検・ホスピタリティといった「限定的で明確なタスク」であれば現時点でも導入対象になりうる一方で、5〜10年後の広範な自律性を見据えた採用計画と、EDGEモデルによる事前審査(Examine)を前提にすべきだと説明しています。
山本力弥への講演・登壇依頼はできますか?
はい。国内外のカンファレンス、企業研修、大学・自治体のイベントなどに対応しています。登壇・講演ご依頼ページからご相談ください。
関連リンク
- 登壇・講演ご依頼|フィジカルAI専門家 山本力弥(RobotMateHub 創業者)
- R検定|フィジカルAI・ロボット分野の検定
- RobotMateHub Research
- 【登壇決定】Humanoids Summit Tokyo 2026にスピーカー登壇
- 【登壇レポート】Venture Café Tokyo「人型ロボットはどう社会実装されるのか」
- RobotMateHub 会社概要
- Techsauce Global Summit 公式サイト(英語)
本記事の数値・引用は、2026年8月26日の登壇資料および講演内容に基づきます。資料内で参照されている出典:Siemens「The Industry Forward Podcast」(2026)/Scale AI(2025)/Tesla careers(2024)/Rest of World(2026)/Figure(公式)/経済産業省プレスリリース(2026年6月)/WEF × BCG「Physical AI」(2025年9月)/JETRO「Japanese Companies in Thailand Survey 2024」(2025年2月)/FTI/World Bank/BOI/RobotMateHubフィールドインタビュー+MillTalk調査(2024〜2026年)。記載の企業名・製品名は各社の商標または登録商標です。
